暗記を効率よくおこなうたった1つのコツ

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もうすぐ夏休みが始まるが、中学受験を控えている小学生は遊んでばっかりはいられないだろう。長期休みを利用してやっておいた方がいいこととして、一つ挙げるとしたら「暗記」だろうか。せっかく膨大な時間があるのだから…と言いながら暗記から逃げてそのツケが秋に回ってきて「あんなに時間があったのに…」と後悔するケースは珍しくない。かといって暗記作業が苦手な子にとっては苦痛な作業だ。そこで今回は楽しく、そして記憶が長期的に残る暗記方法を紹介したい。

さて話を夏休みに戻すと、筆者にとって夏休みと言えば「おばあちゃん、おじいちゃんの家にお泊りすること」が最大のイベントであった。筆者は東京育ちであったため、田舎の原風景というのはとても新鮮で、空気も匂いも空も何もかもが都会のそれとは違うような気がした。なにより祖父母に会うのが楽しみで、田舎にいる間は四六時中祖父母にひっついていた。

筆者の祖父母は栃木の人で、「~だべ。」だとか「~け?」とか、いわゆる北関東なまりの強い話し方をしていた。他にも北関東特有の方言を使いながら話していたのだろうが、話が通じないということは無かったので、どの言葉が方言であったかはほとんど覚えていない。

しかし唯一記憶にしっかり刻み込まれていることばがある。それは「だいじ」ということばだ。そもそも「大事」ということばはどういう意味のことばであろうか。名詞であれば「重大な事柄。容易でない事件。」「大がかりな仕事。大規模な計画。」などという意味を持ち、形容動詞で用いれば「価値あるものとして、大切に扱うさま。」「重要で欠くことのできないさま。ある物事の存否にかかわるさま。」という意味で使われる(goo辞書「大事」の項より引用)。「それは国家の一大事だ。」とか「大事な用事があるならしっかりスケジュール張に書いておきなさい。」のように使われる。これは誰が見てもなんの違和感もない用例だ。

では「たとえ失敗したってだいじだよ。」「心配しなくてもだいじだよ。」と言われたらどうだろう。多くの人がしっくりこなかったのではないか。それよりむしろ「たとえ失敗しても大丈夫だよ。」「心配しなくても大丈夫だよ。」と言ったほうが自然であろう。そう、栃木弁において「だいじ」とは「大丈夫」という意味なのだ。つまり「だいじ、だいじ」というのは「大丈夫、大丈夫」と言っているわけだ。

といいつつもこの話をこれから先覚えている人がどれくらいいるかと言えば、そう多くはないだろう。筆者自身誰かに突然「栃木の人が使うだいじっていうのは大丈夫って意味なんだよ」と言われても、へえ~と言って明日には忘れてしまうだろう。では「忘れたくても忘れられない」記憶としてこの話が筆者の中で残っているのはなぜだろうか。

それは世の中には「意味記憶」と「エピソード記憶」の2つの種類の記憶があることによる。「意味記憶」とは「トンボは360°周囲を見渡すことが出来る」という知識的な記憶のこと。ただこの事実を言われてもあまり記憶には残らないだろう。

一方、「トンボは360°周囲を見渡すことが出来るので、だから後ろから近づいて捕まえようとしてもあっさり逃げられてしまうのだ。」という文がある。これは「エピソード記憶」といってなにか具体的なストーリーと関連させた記憶で、脳に残りやすいと言われている。

実際、虫取り網を背負って、息をひそめてトンボに近づこうとした昔懐かしい記憶を思い出した方もいるのではないか。またエピソード記憶のもう一つの事例として国語の入試で問われることの多い故事成語が挙げられる。「呉越同舟っていうことばは敵同士が時によっては手を取りあって助け合うという意味ですよ」と小学生に教えても、漢字の難しさに舌を巻いて意味を覚えるどころではないだろう。

しかし呉越同舟のエピソード(昔の中国に呉と越というたいそう仲の悪い二つの国があってね…)を話してやればストーリーを楽しみながらすんなり記憶に残る。このように何か個人的な体験談であるとか、サイドストーリーと一緒に記憶すれば強烈に印象に残り、長期的な記憶として脳の中に保存される。

筆者の場合は祖父母が何度も「だいじ」を使っているのを耳にしていたため、つまり個人的な体験談がベースにあったため、栃木人では無いにも関わらず「だいじ」の意味を記憶できたのだ。

もちろんすべての知識がエピソードを加えることが出来るわけではないため、意味知識として記号的に覚えるしかないものもある。しかしながら、暗記が苦手、なかなか覚えられない、という人にはぜひ何らかのエピソードを添えて、自分の体験と関連付けて知識を蓄えることをオススメしたい。