国際バカロレアとは 日本とここまで違う試験問題

最近何かと話題にあがる「バカロレア」。これは国際バカロレア、IB (International Baccalaureate)とよばれる国際的な

大学入学資格と教育プログラム のことです。

(フランスの大学入学資格および試験であるバカロレアとは別物です。)

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今回はこの国際バカロレアが一体どういうものなのか解説します。レッツゴー。

説明はさておきとにかく問題例が見たい人はこちらへ(記事の中盤へ飛びます)

国際バカロレアのしくみ

簡単にいうと、世界共通の大学入学資格、です。

日本人が国際バカロレアを利用する目的の多くは、認定証書である「ディプロマ」を使って海外大学へ進学することです。

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世界中で、この国際バカロレアを使って進学できる大学が増えています。これが注目の理由です。有名どころですと、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学などが独自の基準を設定し、国際バカロレア取得者に入学の門戸を開いています。日本でもすでにいくつかの大学が、国際バカロレア資格の点数を入学試験に利用しています。東大は平成27年度入試から採用予定です。

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では、このバカロレアの特徴はなんなのか、というと、このバカロレアがただの入学資格であるだけでなく、ひとつの教育プログラムである、という点です。

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TOFELなどのように、試験を受ければ良い、というものではなく、ディプロマを受けるためにはバカロレア認定された教育機関のプログラムを受ける必要があります。

国際バカロレアの理念

バカロレアは、グローバルに活躍できる人材を育てるためのプログラムであり、以下のような理念をかかげています。

単に、海外の大学に進学するだけでなく、世界で幅広く活躍できるための学力や知識、思考力をつけよう、というプログラムとして設計されています。

Inquirers 探究する人
Knowledgeable 知識のある人
Thinkers 考える人
Communicators コミュニケーションができる人
Principled 信念のある人
Open-minded 心を開く人
Caring 思いやりのある人
Risk-takers 挑戦する人
Balanced バランスのとれた人
 Reflective 振り返りができる人

バカロレアの教育プログラムって?

国際バカロレア認定校での教育プログラムを受ける必要があります。

1 言語と文学 言語A:文学、言語A:言語と文化、文学と演劇
2 言語習得 言語B、初級語学劇
3 個人と社会 ビジネス、経済、地理、歴史、情報テクノロジーとグローバル社会、哲学、心理学等劇
4 実験科学 生物、化学、デザインテクノロジー、物理、環境システム
5 数学とコンピューター科学 数学スタディーズ、数学SL、数学HL、コンピューター科学
6 芸術 音楽、美術、ダンス、フィルム、演劇

1〜5のグループの科目から1つずつ選択し、さらに1〜6のどれか1つの科目を選択して、合計6つの科目を2年間履修 する必要があります。

通常これらの授業は 英語、フランス語、もしくはスペイン語 で行われます。(一部中国、ドイツ語もあり)

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※現在は、言語Aの授業(グループ1)は英語力向上のために英語で行われていることが多いですが、日本語で行うことも制度上可能です。

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さらに、ディプロマを取得するためには以下の3つの単位が必要です。これらは日本の学校教育で通常行われる内容からはだいぶ違っていますね。

〇 Extended Essay(EE:課題論文)

生徒が学んでいる科目に関連した研究課題を決めて、自分で調査・研究を行い、学術論文にまとめる。

〇 Theory of Knowledge(TOK:知識の理論)

学際的な観点から個々の学問分野の知識体系を吟味して、理性的な考え方と客観的精神を養う。さらに、言語・文化・伝統の多様性を認識し国際理解を深めて、偏見や偏狭な考え方をただし、論理的思考力を育成する。

〇 Creativity/Action/Service(CAS:創造性・活動・奉仕)

教室を出て広い社会で経験を積み、いろいろな人と共同作業することにより協調性、思いやり、実践の大切さを学ぶ。

このように、論理的思考力や学術論文などによって、グローバルな視野をもって、自分で考える力を育てようというプログラムであることがわかります。

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ディプロマを取得のための試験問題例

・「Language and culture」(科目グループ1の「言語と文化」)の問題

Either (どちらかの問いを選んで答えよ )

(a) How do specific groups express their identity through particular uses of language? Base your answer on your study of the language and culture option.

(集団は言語の固有の使用方法を用いてどのようにそのアイデンティティを表現するか。言語と文化に関して自分で学んだことに基づいて答えよ )

Or

(b) What are some of the ways in which a language changes over time? Do you think such changes are positive or negative?

(時を経て言語が変わる方法にはどのようなものがあるか?あなたは、そのような変化は良いことと考えるか、悪いことと考えるか述べよ)

(国際バカロレア公式サイトより 2006年問題 和訳はロジムラボ)

・「Drama」(科目グループ6の「演劇」)の問題

Either (どちらかの問いを選んで答えよ )

(a) “In plays, no one arrives on or leaves from the stage without contributing in some way to the complexity of the play.” Considering two or three plays you have studied, compare the impact on meaning of some arrivals and departures from the stage.

(「演劇においては、誰一人として演劇の複雑さに寄与せずに舞台に上がったり舞台を去ったりすることはない」あなたがこれまでに学習した演劇作品を2,3つふまえて、舞台に現れる方法と去る方法の効果について比較しなさい )

Or

(b) What dramatic techniques have playwrights used to convey ideas and/or beliefs in two or three plays you have studied, and how effective have they been?

(あなたがこれまで学習した2、3の演劇作品の中で、脚本家は考えや信念を伝えるためにどのような演劇的技法を用いていたか、また、それらはどのように効果的であったのか、答えなさい)

(国際バカロレア公式サイトより 2005年問題 和訳はロジムラボ)

・「Mathmatics」(科目グループ5の「数学」)の問題
math

(国際バカロレア公式サイトより 2005年問題 )

・「History」(科目グループ3の「個人と社会」の「歴史」の問題)

What were the most frequent causes of persecution of minorities? Support your answer with specific examples.

(少数民族の迫害の主な原因は何か?具体例を挙げて答えよ )

To what extent were Soviet policies responsible for the outbreak and development of the Cold War between 1945 and 1949?

(1945年から1949年の冷戦の発生と進展においてソビエトの政策はどの程度まで責任があるか?)

Compare and contrast the policies of two multiparty states for dealing with economic and social problems.

(経済・社会問題の取り扱いに関して2つの多党制国家の政策を比較対照しなさい)

(国際バカロレア公式サイトより 2005年問題 和訳はロジムラボ)

どうしたらディプロマを取得できるの?

これらのプログラムは、普通の学校の授業と同じく、一定の学習時間や課題を経て履修しなくてはいけません。

2年間かけてすべての科目の履修が修了することで、いよいよ最終試験を受けます。試験は先ほど紹介したように、日本の大学入試でよく見られるような選択問題ではなく、小論文のような記述式の問題です。試験も授業同様英語またはフランス語、スペイン語です。

試験を受けて、この試験に内部評価を加味した45点満点で評価がでます。7点×6科目=42点に、「課題論文」「知の理論」「課外活動」の3つの単位に各1点ついて合計45点満点で評価されます。24点以上でディプロマ取得となり、合格率は約7割です。海外の有名大学など優秀な大学に入学しようとするほど高い点数が要求されます。(参考までにオックスフォード大学は38点~41点、ケンブリッジ大学は40-41点)

ちなみに採点は、生徒が所属する学校の先生だけでなく国際バカロレア本部・支部の教員も行います。(外部評価制度)

どうして最近注目されているの?

2012年、日本政府が「これから5年間」でバカロレア認定校を200校に増やす」という目標をかかげました。

しかし現在、日本で国際バカロレア認定を受けてバカロレアの教育プログラムを行っている学校の多くは、私立学校、インターナショナルスクールなどの限られた学校のみで現在27校です。そのうち日本の高校卒業認定と同時に取ることができるのはたったの7校しかありません。(リンクはwikipedia  / 2014年7月時点)

先ほど言ったように、バカロレアの授業は英語、フランス語、スペイン語で行ないます。この点がネックとなって、一般的な高校などがバカロレア教育を行うことはとても難しいという問題がありました。

しかし、昨年、一部の授業(言語A、数学、化学、物理、生物、経済、歴史)を日本語で行う日本語と英語の併用によるディプロマ取得プログラムが認められました。

この制度は2016年度の高校2年生から導入される見込みですが、これによって全国の公立高校などでもバカロレア教育が導入しやすくなり、多くの人にバカロレア教育を受けるチャンスが増えていくと考えられます。

現在30校近くの高等学校がバカロレア教育の導入を検討中ということです。

それに伴って、日本の高等教育全体がより国際的な教育へと見直されていく可能性もあるかもしれません。

海外大学入学にどのくらい有利なの?

現在はまだ、国際バカロレアの資格を持っているだけでは入学できません。

しかし一方で名門大学などでは40点近くの高得点をとることでほかの外国人受験生にくらべ有利になるとも言われています。

また、多くの大学で、国際バカロレアの成績が奨学金の申請においても評価されたり、入学後の履修免除要件に使われたりしています。

《アメリカなど北米では》

アメリカでは、バカロレアのみで入学できる大学はほとんどありません。北米ではまだまだSATの方が重視される傾向にあり、多くの大学がバカロレアを持っていてもSATの成績が必要になります。また、アメリカは独自の試験や論文を課す大学が多いです。

ハーバードやイエール大学ではバカロレアの成績を入学資格とし、合否判定に加味するとしています。しかしもちろんそのほかにエッセイ試験や面接があり、成績証明、推薦状などが必要です。

一方で国際バカロレア機構のデータに寄ると、名門校ではバカロレア取得者のほうが合格率が高いというデータもあります。

《イギリス》

イギリスの大学受験者におけるバカロレア取得者は非常に少なく、あまり広く使われているわけではありません。あまり制度として普及しておらず、そのため各大学によってバカロレアの扱いも求める点数もまちまちです。

オックスフォード大学やケンブリッジ大学でのバカロレア利用合格者の平均スコアは40〜42点と言われています。

《フランス》

フランスの大学入試資格は哲学的な論文を書かせることなどで有名です。この試験も「バカロレア」と言いますが、これは国際バカロレアとは全く異なるものです。

フランスの高校生が大学進学する場合、必ずこのフランスのバカロレアを受けます。日本人が高校卒業後などにフランスの大学に進学しようと考える場合も、実際には多くの場合このフランス・バカロレアを受ける必要があります。

そのため、国際バカロレアはほとんど使われません。バカロレア認定校も12校と、日本よりも少ないです。

日本の大学入学に使えるの?

現在、日本の大学でも、バカロレアを利用した入学方法がとられるようになってきています。

おもに、

・高校卒業資格の代わりにディプロマ取得が受験資格となる

・バカロレアの成績が推薦入試の評価の対象となる

といった使い方がされます。

主な関東の大学の取り組みはこちら

《現在》

・上智大学

国際教養学部、理工学部で国際バカロレア資格が、日本人・外国人問わず出願資格として認められている

・早稲田大学

国際教養学部、政治経済学部のAO入試において日本人・外国人問わず国際バカロレア成績を利用できる

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その他、大阪大学、岡山大学、国際基督教大学、横浜市立大学、関西学院大学、玉川大学が国際バカロレア資格を用いた大学入試をおこなっています。

《今後の展望》

・東京大学

2016年度より導入予定の推薦入試では、教養学部や法学部において国際バカロレアの成績もTOFELなどと同様、推薦の根拠となる書類として提出できることになっています。

・筑波大学

2015年度より全学部において国際バカロレア特別入試を導入予定

・上智大学

2016度より、全学部において、高校卒業と同様バカロレア取得が出願資格として認められる予定です。

・慶應大学

法学部では日本人に限定して国際バカロレア入試を2014年度入試より導入決定しました。2015年度より、湘南藤沢キャンパスの2学部がバカロレア取得者/取得見込み者のみを対象としたAO入試IB方式を導入します。書類審査ののち、面接が行われます。