論理的思考に必要なこと

ロジカルシンキングには「思いやり」と「心の余裕」が必要

ロジカルシンキング」や「論理的思考」と聞くと、名探偵の推理のように、複雑なパズルを素早く解いて、答えに綺麗にたどり着く考える力だというイメージをお持ちの方が少なくありません。

確かに、映画や小説では、与えられたヒントを元にして、「それならば、こ言える」という推理によって犯人にたどり着いています。この「推理」のことを専門的には「妥当性の高い変換」と言うのですが、この変換によって出された結果が「なるほど!」と思えると、人々は、それを「論理的だ」と受け止めることになります。

しかし、少し想像してみると、「それならば、こう言える」という変換は、映画や小説ではうまく進んでいますが、現実世界ではうまくいく話ばかりではありません。「妥当性が高そうだったけど、間違いだった」「意外な情報が後から判明した」などの想定外のことも発生するものです。

ロジカルシンキングは、間違いなく答えに辿り着くことができる無敵のツールではなく、妥当性が高そうな選択肢を洗い出して、より効率的に試行錯誤できるようになるスキルのことです。

このことは、ロジカルシンキングを身につけることにおいてとても大切なことです。

「間違いなく答えに辿り着くことができる」と考えてしまうと、

「答えが見えるまでは動き出さない」ことに繋がってしまうからです。

「間違いない」という結論など存在しないにもかかわらず、ずっと探し続けてしまうのです。

-間違いなく相手が理解してくれる発表の仕方
-間違いなく答えに辿り着ける問題解決力

という誤った理解から脱皮していただくことが、ロジカルシンキングを理解するための第一歩です。

選択肢を洗い出す力+効率的に思考錯誤をできる力

ロジカルシンキングの本を開けば、「文章の書き方」「図の作り方」「発表の仕方」などさまざまな「 How to」や事例が紹介されています。

しかし、これを使えば「間違いなく相手が理解してくれる」というわけではありません。いわんや「これらを使って説明しても理解できないのは、相手がロジカルではないからだ」などという傲慢な考えに陥りがちで、それでは何の成果も得られません。

ロジカルシンキングとは「相手が理解しやすくしてあげよう」という「思いやり」の精神を形にしたものです。

例えば、PREPは、Point(結論・要点)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(再度結論)という順序で話してみましょうというフレームワークです。
これは、あくまでこの要素と順序で話すと相手が理解しやすいということで生み出されたものです。ですから、「目の前の相手が本当に理解しやすいExampleになっているか?」や「Reasonは相手の立場でも受け入れられるものを選んでいるか」という目の前の相手を思い遣った運用が大事なのです。
この視点と考え方が、考え漏れや見落としの少ない「筋の良い」案へとつながります。

また、ロジカルシンキングは、選択肢を洗い出して、妥当性の高さを上手に計算出来るようになる技術です。あくまで選択肢の洗い出しまでですので、そこからは「試行錯誤」が必要です。試行錯誤を進める上で大事なことは、間違えたらすぐに次に活かすという姿勢です。しかし、多くの子どもたちは「間違えたらどうしよう」という恐怖心が先に立ち、試行錯誤の最初の一歩目を踏み出すことが出来ません。つまり恐怖心とは逆の「間違えたって、何も失うことはない」という「心の余裕」こそが試行錯誤=ロジカルシンキングの土台として必要なものなのです。

「心の余裕」とは、現在注目されている「心理的安全性」とも言い換えることが出来るものです。

「間違いなく答えに辿り着ける思考技術などない」と理解していれば、「間違いを発表したり、間違いにぶつかったりすることは誰にでもあることだ」という「心の余裕」が生まれます。そうしないと、緊張で思考が固まってしまい、答えが見えない状況のなかで立ち止まってしまうのです。少し難しい問題や自分の考えを述べよという問題に直面したときに、「正解はなんだろう?」「正解を見つけなければ」という緊張で何も考えられなくなってしまうことは、皆さんにもご経験があるかと思います。

ロジカルシンキングとは、コンピューターのように答えを弾き出す技術ではなく「相手のことを思いやる」とか「間違えても大丈夫だ」と考える「心の余裕」など極めて人間的なスキルです。

是非みなさんも「考える力」の出発点として、この2点を大事に確認してみてください。